木工と生活の場、滋賀県高島市マキノ町海津西浜。
日本の水瓶「琵琶湖」の北西に位置するこの集落は、琵琶湖に沿って家が建ち並び、人は昔から湖と共に暮らしと町の歴史を歩んできました。
移ろう空を穏やかに映す湖面とは裏腹に、澄んだ水中では多彩で有機的な命の躍動が繰り広げられ、ここから臨む琵琶湖は豊かさに満ちています。
そして、その水の一滴一滴を支えるのが、自然の絶妙なバランスを保ちながらそこにそびえ立つ山々です。
湖の健やかさは山の具合にあり、山の木々はその中で最も大きな役割を果たしています。
木とは。
あらゆる自然事象に逆らうことなく姿形に刻み込み、完全な造形美をもって沈黙のままそこにたたずむ生き物。
山中で出会う、葉擦れの音、柔らかな土壌、湿りを含んだ木々の匂いに、張り詰めたような生命感を感じる事があります。
朽ちた木ですら、そこに生きたという凄みを湛えて物語ってくるものがあります。
こういった朽ち木やコブ(成長過程でなんらかのストレスを受けてできた塊)を質感として生かすものを作る時、木を削る匂いや手触りといった五感を研ぎ澄ます集中の尖端に、一心に用の美を探ろうとする手と、山の記憶を辿る心の対峙があり、飛んでくる木片に眼を瞬かせている内に、自分の技巧を超えた思いもよらない着地点に到達できる事がしばしばあります。
私には、この共に生きる大地で育った木と日々向き合うことが、
自分の中にも在る野生の一滴を絶やさず見失わないために見つけた
カンナ屑にまみれた道しるべなのかもしれません。
Soubou craft 山本雄次