風紋 消えるものたち

カテゴリ:暮らし子供地域

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湿り気を含んだ
肌にまとわりつく熱風から
こちらに目もくれず涼しげに天高く行き交う風に変わった
秋の訪れ

乾いた風が吹き去る度に、2度と同じ形にならない風紋を残す様が生まれては消える何気ない日々の営みに重なる

喜ぶ顔を浮かべながら作ったハンバーグも
ドキドキしながら応援した運動会も
また明日!と友達に手を振りながら後ろ向きに帰ってくる子の姿も

そんな儚い一瞬一瞬でこの日々が構成され繋がっている事を、美しいと思う

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もう10年通う保育園
そこに続く裏道がいくつかある

民家や畑、田んぼの脇を歩いて徒歩5分ほどの裏道を
数年前まで毎日1時間近くかけて帰っていた

季節ごとに美しい田んぼを横目に
雨の後にはむせ返すような季節の草花の匂い
春には用水路をあがる魚を追いかけ
コスモスの中を歩いて 
かぶりついた柿で顔中ベタベタにして笑い
もみじの様な小さな手には小さな花束
テーブルの小さなコップに飾られる

この愛しい裏道が歩けるように保たれていたのは
人々の心の賜物である事に10年歩いてこの春始めて気づいた

そういえばいつの間にかなくなった
背中を丸くして野花を残し脇道の草をひいていたおばあさん
通学の自転車で通る孫のために草刈機をふるっていたおじいさん
春には水がひかれ生きた田んぼを行き交う人々

草木に覆われて消えていく道を眺めながら、様々な記憶が浮かんでは風のように吹き去っていく

2年半後、末っ子の卒園と同時にこの保育園はなくなり、もうこの道を歩く事もほとんどなくなるだろう

この道も、道を守ってきた人々の行為も、風の残す風紋のように消えてなくなるのだろう

誰のものでもない道が、誰の仕事でも約束でもなく淡々とした暮らしの中で保たれていた事がたまらなく愛しい
 

愛しい愛しいオヨヨヨヨ…と道の全てを愛でながら、しばらく伸び過ぎた草木に草刈り機の刃や鎌や鋏を容赦なく振りかざす自分が荒々しくて….
なんだか複雑