寂しい波紋

もう来なくて大丈夫だよ、もし何かあったら３月までなら診察してるからね。」

知っていた。知っていたけど、心の底に寂しさの波紋がひとつ広がっていくのを感じた。

この春で高島市民病院から産婦人科がなくなる。全国的に問題になっている産婦人科医の不足。24時間体制の激務と、医師ひとりにかかる負担、医療訴訟のリスクが原因で産婦人科医を目指す若手医師が減少している深刻な実情。

そして高島市唯一の産婦人科も遂になくなってしまう。

産後健診に引っかかり、再診察。私は何度も何度も頭を下げてお礼を言った。

「上の子も、下の子も、本当にありがとうございました。」

先生や助産婦さんたちの最後の別れの笑顔が、湿った瞼に焼きついた。

移住促進を市民一丸となって取り組んでいる高島から、まさかの産婦人科がなくなる、その事自体もショックな話だが、私の涙にはまた違う景色が写り込んでいる。

私にとってはここが、息子と娘に初めて触れた、奇跡の場所だった。

愛おしい、柔らかい、守ってあげたい、強くなりたい、幸せにしてやりたい、今なお膨らみ続けるその想いたちが産声をあげた場所でもあった。

至って普通の、機械だらけの完全に管理された環境の出産だったけど、そんな事はどうでもいい。ここが家族の絆の始まりだった。

この病院のパーキングに入るたび、

突然の陣痛にも冷静に車を走らせ、最後まで付き添ってくれたあの日の夫を思い出す。翌日、まだ柔らかい５月の朝の光の中、涙ぐみながら「おめでとう、しぃちゃん」と言った母の顔が浮かぶ。

下の子の時は、義父母が仕事や予定をキャンセルしてこっちに滞在してくれ、毎日息子をお見舞いに連れてきてくれたことを思い出す。ベッドに転がる妹の誕生を咎めるでもなく、嬉しそうに大事そうに、壊れたらどうしよう、、、という手つきで触れていた息子の姿が浮かぶ。

辛い思いもしたこともある。でもそれも一つの奇跡、感謝に昇華されていく。

ここは“産婦人科”以上の場所だった。私にとって。それに、私と同じ思いをした方々にとって。

出産を支えてくださった先生、助産婦さんたちに心からの感謝と、

人が生まれる手伝いをするという壮大で壮絶な役割を担うため、人生をかけて学び、今仕事とされていることに尊敬の思いでいます。

またここ高島に、希望が産まれる場所が帰ってくることを、心から願います。

2017.2.13

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この1ヶ月後、新しい医師の着任が決まり、産婦人科継続の発表がなされました。
この喜ばしい報告にお力添えをくださった皆さま、心より感謝いたします。