風車を回すもの

カテゴリ:暮らし

琵琶湖の夏。
大人になった古い友人たちが遊びに来る。
1人ふらっと訪ねて来てくれる者、
結婚し、夫婦で来てくれる者、
家族を築き、移動に四苦八苦しながらも子連れで遊びに来てくれる者もいる。

少し離れて浜に座っていると、集った友人たちの昔と変わらない屈託のない笑い声や、時に神妙な話し声が風に乗って運ばれてくる。
節々に懐かしい日々の断片が浮かび、もう戻れないハチャメチャで楽しかった過去と、今またこうして友たちと同じ時間の中に居れることを幸福に思う。

友人は宝。
友人だけじゃない、
人との出会いはわたしの財産、生きる全てに思う。

小学生を尼崎で過ごし、中学校で神戸へ。
尼崎。「出身どこ?」「アマですわ!」で有名な、ギリギリ兵庫県なのにその独特な街の雰囲気で大阪に間違われる、不思議な魅力の下町。
ダウンタウンの通っていた中学校が家の隣にあり、エッセイが異彩を放つあの中島らも氏も尼崎出身。
まさにトンチンカンな仲間たちのいた尼崎の常識は、男女共に品の良い神戸のお山の学校では全くの非常識だった。
その中学校では極めて珍しい、口も態度も荒いイカツイ先生が担任になり、わたしは早速目をつけられた。
尼崎の小学校では真面目な控えめ優等生のしーちゃんだったのに、ここ中学では一変して不良のまっちゃんになってしまったのだ。

人生であれほどなんども呼び出されて立たされ、心臓の鼓動を小さくしながら蛇に睨まれたカエルの気分を味わった時代は他にない。

その先生が担任最後の日、全員に一冊の詩集を配り、あるページを開くよう指示した。
「おーいー まぁ〜つもとぉぉぉ!」
いつも同様いちいちドスのきいた声でわたしを呼び、
「これー 立って読め。」
と席に立たされ、この詩を朗読した。

「風車を回すもの」ー銀色夏生ー

風車をまわすものは
風のようなもの
すき通っていて
目にはみえないもの

私たちの心を動かすものも
目にはみえないけれど
それはとても強い力をもっている

大切なものを守る気持ちや
勇気とか
誇りを傷つけられたくやしさとか
笑いがあふれるような愛とか いろいろ
くるくると心の羽がよく回ってる人って
勢いがあっていさぎよい

「くるくると心の羽がよく回ってる人って勢いがあっていさぎよい」
ど真面目に大きな声で読み終えたとき、「ああ、こうなりたい。」強く思った。
小さな、大きな選択肢のたびに、この言葉に背中を押される方を選んできて今ここに在る。

くるくるくるくる、
34年間よく回ってきたわたしの風車は、今までもこれからも人と関わることでよく回る。
誰とも会わずに籠って制作する時間でさえも、誰かと過ごしたいつかの日々が羽を力強く回してくれる。

この財産、原動力があれば風車は錆びることはない。
そう思える宝をすでに手に入れてしまった。
なんて幸せ者!
菰口先生、
先生にまた会えるなら、このことを伝えたい。

近所の林さんと夫。この土地マキノで出会った投網の師匠。夕方突然電話があり、今年は不漁の小鮎なのに秘密の漁場を教えてくれた。

2人の子らもこれからどれだけ出会い別れを経験するだろう。
友のつくりかた
師と呼べる先生との出会いかた

これは親のわたしにも、どこの誰にも教えてもらえない。

今、子らは朝から晩まで泣いたり笑ったり怒ったり、心の羽はくるくるくるくる、せわしない程よく回っている。
回れ回れ!
わたしの目も心もグルングルンですけど、、、。

いつかあなたたちが誰かの心の羽を大きく回す日が来る。
そして多くの出会いこそが、あなたたちの風車を決して錆びないものに仕立ててくれる。

人との繋がりを、大切にできる人に育って欲しい。

息子の友、かわいいお尻のぼんちゃんと。

2017.7.19