6年前か 絵本をかいた
2017 / 12 / 26カテゴリ:染織
6年ほど前か。
絵本をかいた。
先生の下で、営利目的ではない純粋な「布を織る」仕事を学ばせていただいていた時、
生きたものを創ることは、これほどまでに胸が沸き立つものなのかと日々心を息吹かせていた。
この根源的な喜びの体験は決して機織りに限らないけれど、
信仰と生活の中で息づいていた機織りの歴史、蚕の命とひきかえの糸、植物のこと等など、まつわる事柄を想うと
この尊い仕事に今生きてこの指で触れれることに、胸を熱くしてしまう。
機織りはとても静かな作業。
工房にいた頃、毎日朝から晩まで黙々と織る。
煙のように細い絹糸は、時に絡まり時に切れるので目を凝らしながら糸を辿る。
時にはももけ、ささくれた指にまとわりつく糸をつまみ、ひょいと唾をつけて指先でよりあわす。
静かに、静かに、自分と糸と機、それだけを持ち、ゆっくりと古い寺院の回廊を摺り足ですすむように、
静かに淡々と一本一本、杼(ひ)を操りながら織ってゆく。
つい先日、その工房時代の仲間がマキノに集った。
採れたての日本茜の根、美味しい手作りご飯に嬉しいお土産に。
工房で毎日当番制で作る、美味しいご飯を囲んだあの頃の光景が浮かび、切ないほど懐かしい。
工房で彼女たちに出会い、共に過ごし、どれほどの刺激を受けたろう。
ー 生きる姿勢
先生方から学ぶ尊いことごとに匹敵するほど、彼女たちの日々の背中は偉大だった。
ひたむきで実直な彼女たちの、静かに機に向かう姿。
とん
からり
とんとん
からり
杼が右から左へ、左から右へと動く音と、框(かまち)を打ち込む音だけが響く。
打ち込まれているのは、
想いであり、それぞれに奏でる詩(うた)である。
誰かへ、何かへ、日々の、過去へ、未来への、、、、
今、日々の諸々にまみれ、機を織れる時間は本当にわずか。
ふと押入れに布にくるまって出てきた絵本とも言えないような絵と文を眺め、
なんとまぁわかりにくい、、、と反省もするけれど、
あの時、この機を織る静かな喜びをどうにかして残したいと書き留めた。
ああ、私にとってものを創る喜びは、とてもシンプルなところなのだろう、と振り返る。
今日も わずかな時間を縫って織る。
今年の、終わりに。
6つの時のこと
母さんが そっと 教えてくれた
とん からり とん
煙のような糸を まるで空を映したような布に
かえてしまう 魔法
夜 みんな寝静まったころ
開いたままの窓から 風はそろりと入ってくる
そして 織りたての私の布を なでた
途端に布は 澄みきった空に変わってしまった!
雲がおよぎ 木立は吹き渡る風の唄を歌う
一羽の鳥が 一通の手紙を届けてくれた
朝 目がさめると 布は静かにそこにあって
でも私は知ってる
窓のすみっこの落としもの
とん からり とん
遠い 誰かへとつながっている
とん からり とん
あの時の母さんと 同じ年頃になって
出会った ひとと
日々を
紡ぎだした
とん からり とん
とん からり
やわらかい あなたへ
とんとん からり
とん
からり とんとん
この日々が
とんとん からり
とん からり とん
たしかなもので あるように
とんとん
からり
どこまできたんだろう
揺らめく時の中をくぐり抜けて 今
ひと織り とん
ふた織り とんとん
喜びと哀しみの織りなす布は
海のように深くふくらみ私を包みこむ
布の海に一艘の小舟
呼ばれた気がして 私は飛びのる
ゆき交う舟の中に
6つの私をみつけて 手をふる
糸のように細くてきれいな口笛が
風にのって 返ってきた
やわらかな布の海
この月は いつからここにあったろう
よせる波が 月明かりに浮かぶひとつの家まで運んでくれた
すっかり錆びた小さなドアノブは あけてごらんと誘うよう
ドアの向こうから
愛した日々が 溢れ出てきた
ことん かたり
機カケ 命カケ
絲 アヤオリ
想ヒ アヤオリ
ー柳宗悦 心偈ー
さっきも袋いっぱいの金柑をご近所の方が届けてくれた。
いい匂い。
本当に、本当に、
お世話になったみなみなさま
今年も一年、本当にありがとうございました。
また来年も頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。
山本 雄次
静