「表情」

カテゴリ:暮らし

そうじが笑うと ちとせが笑う
ちとせが笑うと そうじが笑う
鏡のような、ふたり。

存在するものには全て表情がある。
無機的なものにも、然り。

最近夫が息をのむほど美しい木目を見せてくれた。
よく、木目から木の生きてきた環境や背景がわかると言われるが、この木目にはどんな秘密が詰まっているのか。
一層一層同じ間合いを保ち、淡々と静謐な表情を湛えているものもあれば、このように、木の一瞬を切り取ったようなハッとさせられるものもある。
わたしたちの仕事はそれに少し手を加え、また新たに道具として生まれ変わらせる事だが、
木目を見ていると大事なことは、木が過ごしてきた大地の時間をいかに感じてもらえるよう表現していくか、それが使い手へのメッセージになり、木へのリスペクトであるように感じる。

わたし自身の仕事、染織もそうだ。
先日ヨモギを染めた。
初夏の焼け付く日差しを背に、よく伸びたヨモギを刈り取る。
袋に入れてもまだ太陽の熱を持ち、呼吸しているようだ。
家に戻るとすぐに湯のはった大鍋で煮込む。
湯気に乗ってヨモギの香りが漂い出し、心地よくその中を泳ぐように作業する。
本当に大鍋の中を泳いでいるのは、ヨモギの染液を含み薄山吹色がかって艶めく絹糸の束。

さっきまで一心に太陽の光を浴びて上へ上へと伸びていたヨモギ。
今は糸がその精を引き継いだ。
それをまたわたしが引き継ぎ、この青青としたヨモギの生い茂る景色、あの萌えるような香りを言葉にして織り込んでいく。

木工も染織も、つくる前にすでに誇らしい表情を持っている素材たち。

子らが笑う。
顔から溢れんばかりの笑みは、小さな火花のように儚くて尊くて、
どうにかしてずっと心に留めておきたいと願う。
表情、それは本当に一瞬の煌めきで、儚いゆえに美しい。
2017.5.25 木